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神戸地方裁判所 平成7年(行ウ)39号 判決

神戸市兵庫区永沢町四丁目二番二九号

原告

湊川酒類販売株式会社

右代表者代表取締役

北野浩司

神戸市兵庫区中道通一丁目四番三一号

原告

株式会社北野商店

右代表者代表取締役

北野正博

右原告ら訴訟代理人弁護士

下山量平

神戸市須磨区衣掛町五丁目二の一八

被告

須磨税務署長 林貞好

右指定代理人

岩松浩之

益野貴広

田畑和廣

松尾安起

浅井孝二

主文

一  被告が原告湊川酒類販売株式会社に対して平成七年七月三日須法第五号通知書にて、平成六年九月二九日付けで申請のあった神戸市須磨区弥栄台一丁目三番地一についての酒類販売業免許拒否処分を取り消す。

二  被告が原告株式会社北野商店に対して平成七年七月三日須法第四号通知書にて、平成六年九月二九日付けで申請のあった神戸市須磨区弥栄台一丁目三番地一についての酒類販売業免許拒否処分を取り消す。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、原告等がそれぞれ酒類販売業免許の申請をしたところ、経営の基礎が薄弱であると認められる場合(酒税法一〇条一〇号)に該たるとして、被告が右各免許をいずれも拒否する処分を行ったため、原告らが右各処分の取消しを求めた事案である。

二  争いのない事実

1  被告は、平成六年九月一日、平成六免許年度一般酒類小売業免許申請要領の公告をしたが、右公告において、神戸市須磨区弥栄台一丁目を含む同市須磨区役所北須磨支所所管区域については免許枠は八軒とされていた。

2(一)  原告湊川酒類販売株式会社(以下「原告湊川酒販」という。)及び原告株式会社北野商店(以下「原告北野商店」という。)は、いずれも長年にわたり酒類販売業を営んでいたが、それぞれ被告に対して平成六年九月二九日に神戸市須磨区弥栄台一丁目三番地一を販売場とする一般酒類小売業免許を申請した(以下「本件各申請」という。)。

(二)  なお、各申請販売場に関しては、原告らは、神戸市から昭和六一年三月二五日に神戸市須磨区弥栄台一丁目三番一宅地三二九五・三八平方メートルを流通業務市街地の整備に関する法律(以下「流市法」という。)に基づく神戸市施行の神戸流通業務団地造成敷地として譲り受け、同六二年三月二七日原告らの共有持分を各二分の一として所有権保存登記をし、同月二三日右土地上に鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建九〇九・一平方メートルの建物を新築した。右建物の原告湊川酒販の専有部分は倉庫・事務所床面積四五七・〇三平方メートル、原告北野商店の専有部分は倉庫床面積四四三・六〇平方メートルであった。

3  被告は、原告湊川酒販に対し平成六年一〇月一二日須法第五四六号一般酒類小売業免許抽選実施通知書で、原告北野商店に対し同日須法第五四八号一般酒類小売業免許抽選実施通知書で、それぞれ同年一〇月二〇日に抽選を行う旨通知をした。そして被告は同年一〇月二〇日に抽選を行った結果、原告湊川酒販は審査順位が四番目となり、原告北野商店は審査順位が一番目となった。

4  被告は、審査の結果、原告湊川酒販に対し平成七年七月三日須法第五号通知書にて、原告北野商店に対し同日須法第四号通知書で、いずれも酒類販売業免許を拒否する処分(以下「本件各拒否処分」という。)をした。

その理由とするところは申請販売場は流市法に基づき施行された区域内にあり、小売行為は認められていないことから経営の基礎が薄弱と認められ、酒税法一〇条一〇号に該当するということであった。

三  争点

1  酒税法一〇条一〇号にいう「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」に該当するか。

2  酒税法一〇条一一号にいう「酒類の需給の均衡を維持する必要があるため……酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合」に該当するか。

四  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(被告の主張)

(一)(1) 酒税法について

酒類の製造免許又は酒類の販売業免許の申請に対し、税務署長は、当該申請者が「破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合」には、免許を与えないことができる(酒税法(以下「法」という。)一〇条一〇号)。

右「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」とは、事業経営のために必要な資金の欠乏、経済的信用の薄弱、製品又は販売設備の不十分、経営能力の貧困等、経営の物的、人的、資金的要素に相当な欠陥があって、事業の経営が確実とは認められない場合をいう(昭和五三年六月一七日付け間酒一―二五「酒税法基本通達の全部改正について」・国税庁長官通達一〇条五項)。

そして、一般酒類小売業免許は、小売販売地域ごとに免許を付与し、販売場で酒類の販売を許すものであるから、右事業経営のために必要な製品又は販売設備とは、当該申請販売場を意味し、これが不十分である場合には、法一〇条一〇号にいう「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」に該当することとなる。

(2) 流市法について

原告らは、いずれも神戸市須磨区弥栄台一丁目三番一に販売場を設置するとして、本件各申請を行っているが、右地域は流市法の対象地域であり、流市法にいう流通業務地区(流市法四条参照)に該当する。

そして、流通業務地区においては、倉庫等流市法五条一項各号に該当する施設以外の施設を建設することはできず、また、施設を改築し、又はその用途を変更して右各号に該当する施設以外の施設とすることもできず(流市法五条一項)、違反施設の所有者等に対し、施設の移転、除却等を命ずることができるし(流市法六条)、違反者に対しては罰則もある(同法五〇条)。

(二) 一般消費者に対する小売設備を設けることができないこと

(1) 本件各申請の内容

本件各申請は、申請書の記載内容に照らし、いずれも一般消費者に対する販売を目的とする申請としか理解できないものである。

仮に、本件各申請をいずれも専ら業務用卸売行為を行うものとして行ったものであることを神戸税務署の担当官に説明したとしても、酒類の販売業免許の申請は書面を当該税務署長に提出してしなければならない(酒税法施行令一四条)のであるから、いったん前記内容の各申請書を提出した以上、後に書面でこれを訂正していない本件においては、たとえ担当官に口頭で種々の申し出をしたとしても、本件各申請の内容は申請書記載のとおりのものと解さざるを得ない。

(2) 小売販売設備を設けることができないこと

ところで、原告らは、流市法五条一項三号の倉庫を販売場として、そこにおいて酒類販売業を行おうとしているところ、右のように、その施設の用途を変更することはできないのであるから、結局同所において小売販売設備を設けることができないことになる。

したがって、原告らは、いずれも事業経営のために必要な製品又は販売設備が十分でないことになり、「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」に当たることになる。

(3) 結論

以上のとおり、原告らは、本件各申請販売場において、事業経営のために必要な製品又は販売設備を有することができないのであるから、法一〇条一〇号の「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」に該当するとして、本件免許申請に対し被告が行った本件各拒否処分はいずれも適法である。

(三) 行政の統一性について

仮に、本件各申請の内容が、料飲店営業者のみに対する販売を目的とする申請であると理解できるとしても、酒販免許に販売先を料飲店営業者に限定する旨の条件を付すことは酒税法上予定されておらず、条件を付けないことになると、結局当該販売場における一般消費者に対する小売行為をも許容する内容の免許を付与するということになる。

前述のとおり、本件各申請販売場における一般消費者に対する小売行為は、流市法の規定に抵触する違法行為である。そして、国家機関である被告が、右のような違法行為を許容する内容の免許を付与しなければならないとすることは、行政の統一性という観点から到底許容し難い事態である。

(四) 本件各申請販売場に係る敷地が確保されていないこと

(1) 本件各申請販売場のある場所は、都市計画法及び流市法の規定に従って決定された都市計画において、右都市計画に従って建築すべき流通業務施設である倉庫(流市法五条一項三号)の敷地として用途指定された場所である。

神戸市が原告らと締結した本件各申請販売場に係る敷地である土地(以下「本件土地」という。)の譲渡契約においては、原告らは、倉庫施設の用途にのみ使用しなければならない旨の約定があり、原告らが右約定に反した場合には、神戸市が契約を解除し、あるいは本件土地の買戻しをすることができる旨の特約があった。

(2) 原告らは、右土地上に建築した倉庫・事務所ないし倉庫を販売場とし、販売設備を設けて、酒類販売業を行おうとするものであり、原告らの右行為は、そこにおける酒類の販売態様が一般消費者に対する小売行為であれ、あるいは原告らの主張するような料飲店営業者に対する業務用卸売行為であれ、本来物品の保管の用に供する施設である倉庫の用途を変更するものであり、本件流通業務団地の都市計画に反することはもとより、本件土地譲渡契約にも違反することが明らかである。

(3) そして、本件土地譲渡契約が、原告らの右用途変更により契約違反として、前記特約に基づいて神戸市により解除され、あるいは本件土地の買戻しがなされるおそれがあり、法的に見て、販売場を設置すべき場所が確保されているとはいえない点で、原告らは、いずれも事業経営のために必要な製品又は販売設備が十分でないというほかなく、この点においても、酒税法一〇条一〇号の「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」に該当するというべきである。

(原告らの主張)

(一) 料飲店営業者への卸売は差し支えないこと

流市法は卸売を禁止していない(五条一項五号参照)ので、原告らが本件各申請場所で料飲店営業者への卸売をすることは流市法に違反しない。

また、原告らは、神戸市から本件各申請場所の土地の分譲を受ける際に酒類の倉庫と卸売、業務用卸売をするということで厳しい審査を経て分譲を受けたものであるから、本件場所で業務用卸売業を行うことは、正当な行為である。

なお、現況においても、倉庫団地のほとんどは卸売業者が使用している。

(二) 本件各申請の内容等

(1) 原告らは、料飲店営業者への卸売を予定して本件各申請をなしたものである。

本件各申請書には一般消費者を予定販売先とするかのような記載がされているが、右は、小売免許申請の場合、主な予定販売先は省略して差し支えないとされており、また、専ら料飲店営業者を販売の対象とする場合であっても、一般消費者向けを対象とした見込数量と予定販売先を書くようになっているため、原告らも右のような記載をしただけである。

そして、申請書の提出の前後に、原告らは、神戸税務署の酒類指導官に対して、本件各申請は料飲店営業者のみを販売の対象とするものであることを何回にもわたり説明した。

これに対し被告は、料飲店営業者のみに販売する免許は一般酒類小売業免許ではなく特殊免許に該当するなどといった誤った解釈のもとに、原告らに本件各申請の撤回を要求し、結局において本件各申請を拒否したものである。

(2) 被告は、たとえ担当官に口頭で種々の申し出をしたとしても、本件各申請の内容は、申請書記載のとおりのものと解さざるを得ない旨主張するが、仮に申請書の記載を基準に考えるとしても、右のとおり原告らが担当官に口頭で種々の申し出をし、被告において原告らが意図する申請内容を承知していた以上、被告は申請書の書換え又は補正をさせる等の行政指導をすべきであり、一切それなくして形式的な記載を理由に免許拒否をすることは許されない。

(三) 経営の基礎が薄弱とはいえないこと

原告らは、それぞれ、長年にわたり酒販業を営んできており、酒販業を経営していく上での充分な設備、資金等を備えており、また、本件各申請で販売場として予定されている建物内には卸売に必要な什器備品が揃っていて、いつでも業務用卸売ができる態勢にある。

よって、経営の基礎が薄弱であるとの被告の主張は失当である。

(四) 一般酒類小売業免許を付与するのに流市法の規制を考慮する必要はないこと

(1) 流市法は一般消費者への小売行為を規制し、一般酒類小売業免許は一般消費者への小売行為をも認める内容の免許であるところ、このことを酒税法一〇条一〇号の問題として考える必要はない。

すなわち、一般酒類小売業免許を受けた者が、流市法の規制により結果的に料飲店営業者のみへの卸売となっても、何ら不都合なことはない。

本件でいえば、原告らが本件各申請場所で料飲店営業者に対する卸売行為をすればそれでよいのである。

したがって、被告としては、一般酒類小売業免許を付与して、あとは一般消費者への店頭販売が可能か否かは、流市法の適用に任せればよく、被告がこれに関与する必要はないのである。酒税法一〇条一〇号の問題と流市法の問題は分けて考えればよい。

(2) 仮に、被告において、単に一般酒類小売業免許を付与しただけでは不都合であると考えたとしても、一般消費者に対して店頭販売等をしない旨の誓約書を原告らから提出させたり、あるいは、料飲店営業者への販売に限る旨の条件を付けて免許を付与すればよい。

2  争点2について

(被告の主張)

(一) 酒税法について

酒税法一〇条一一号は、「酒類の需給の均衡を維持する必要があるため……酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合」には、税務署長は、免許を与えないことができると規定している。

そして、免許取扱要領は、一般酒類小売業免許の付与に際し、酒税法一〇条一一号の「需給の均衡を維持する」必要性の有無を判断するための具体的方法として、需給調整上の要件を設けており、右需給調整上の要件においては、小売販売地域内の人口数を指標として需要量を把握し、販売場数を指標として供給量を把握して、両者の対比から需給調整の必要性の有無を判断する方法を採っている。

(二) 人口基準の趣旨

ところで、現行の免許取扱要領が一般酒類小売業免許の年度内一般免許枠の確定に当たって、小売販売地域の人口を、小売販売地域の格付けごとに定められた基準人口(以下「人口基準」という。)で除し基準人口比率を算定する方法を採っているのは、結局のところ、一定地域に居住する者が酒類を購入する可能性があることを前提として、この需要の多寡を人口数を基準として把握し、需給の調整を図ろうとするものにほかならない。

そして、この人口基準により算出された酒販店の数に基づき付与される免許は、酒類販売業者が小売販売地域内の酒類を購入しようとするすべての消費者又は料飲店営業者に販売できることを前提とするものであり、免許の効果は小売販売地域内の消費者又は料飲店営業者に平等に広く行き渡ることが要請されるものである。

(三) これを本件各申請販売場についてみると、本件各申請販売場はそもそも流市法の規制により料飲店営業者にしか販売できない場所であり、一般消費者には販売できないことは明らかである。

このような場所に免許を付与すれば、小売販売地域内に居住する住民の中に原告らから酒類を購入できる限られた「料飲店営業者」と購入できない一般消費者(限られた「料飲店営業者」に比較してはるかに多数である)とが生ずることになり、その地域について、一律の人口基準により需要の多寡を判断することが困難ないし不可能となるといわざるを得ないし、一律に人口基準により販売場数を算出することの合理性が失われることとなる。

したがって、料飲店営業者にしか販売できない本件各申請販売場に一般酒類小売業免許を付与することは、需給均衡維持の要件の有無の判断のための具体的な方法として免許取扱要領が採用している人口基準を形骸化することとなり、したがつて、酒税法一〇条一一号の観点からも許されないものというべきである。

(原告らの主張)

被告は、平成六年度の北須磨支所管内の免許枠について八件の公告をした。右公告した免許枠八件分はいずれも、一般消費者又は料飲店の基準人口及び小売数量要件を充足して免許枠が設定されている。すなわち、本件各申請は、すでに当該地区の需給調整上の要件が備わった上でのものである。

また、需給調整上の要件は既存の小売業者の保護を目的とするものであるところ、原告らに対して一般酒類小売業免許を与えても、原告らは本件各申請場所では流市法により料飲店のみの販売となるのであるから、既存業者に及ぼす影響はより小さいはずである。

よって、本件において需給調整上の要件を持ち出すのは失当である。

第三当裁判所の判断

一  争いのない事実、証拠(甲一二、一四ないし一七、二〇の1・2、二四、二五、二六及び二七の各1・2、二八、三〇、乙二ないし七、九、調査嘱託の結果、証人上田徹、原告湊川酒販代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  酒税法基本通達及び酒類販売業免許等取扱要領について

(一) 酒税法基本通達について

本件処分当時における酒税法基本通達(昭和五三年六月一七日付間酒一―二五「酒税法基本通達の全部改正について」国税庁長官通達の別冊。以下「基本通達」という。)は、法一〇条一〇号に規定する「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」の意義について、「事業経営のために必要な資金の欠乏、経済的信用の薄弱、製品又は販売設備の不十分、経営能力の貧困等、経営の物的、人的、資金的要素に相当な欠陥があって、事業の経営が確実とは認められない場合」をいうと定め、また、同条一一号に規定する「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要がある」の意義について、「新たに酒類の製造免許又は販売業免許を与えたときは、地域的又は全国的に酒類の需給の均衡を破り、その生産及び販売の面に混乱を来し、製造者又は販売業者の経営の基礎を危くし、ひいては、酒税の保全に悪影響を及ぼすと認められる場合」をいうと定めていた。

(二) 酒類販売業免許等取扱要領について

また、本件処分当時における酒類販売業免許等取扱要領(平成元年六月一〇日付間酒三―二九五「酒類の販売業免許等の取扱いについて」国税庁長官通達の別冊「酒類販売業免許等取扱要領」改正平成六年八月二二日付課酒三―九。以下「取扱要領」という。)は、一般酒類小売業の免許の要件として、申請者の人的要件、酒類の需給調整上の要件等を定めていた。

(1) 法一〇条一〇号に関する定め

ア 法一〇条一〇号に関しては、人的要件として、「申請販売場の所在する同一市区町村内の一般酒類小売業者の平均的な酒類小売数量に相当する酒類を販売できるものと見込まれる者であること」、「当該平均的な酒類小売数量に相当する酒類を販売するための所要資金を賄うに足りる所有資金等(資本、当座資産及び融資をいう。以下同じ。)並びに必要な販売施設及び設備を有していると認められる者であること((3)に定める毎年度の終了する日(八月三一日をいう。)までに販売施設及び設備を有することが確実と認められる者を含む。)」などと定めていた。

イ また、申請書の受理に関し、「申請書の記載内容が不完全なもの又は添付書類の不備なものは期限を定めて補正させることとし」、「申請書(添付書類を含む。)に虚偽の記載がある場合その他の不正行為が認められたとき」は「法第10条第10号に規定する経営の基礎が薄弱であると認められる場合に該当するかどうかについて十分な審査を行って拒否処分の可否を決定すること」と定め、注として「虚偽の記載その他の不正行為は、人的要素に相当の欠陥があると判断されるものである」としている。

(2) 法一〇条一一号に関する定め

法一〇条一一号に関しては、酒類の需給調整上の要件として、小売販売地域ごとに人口密度等による三段階の格付をし、当該小売販売地域の人口を右段階ごとに分かれた基準人口で除して得られる基準人口比率から既に免許のある販売場の数を控除して、新たに免許を付与し得る販売場数の計算値を求め、これを各年度ごとに定められた除数で除するなどして、当該小売販売地域の当該年度内の免許枠を確定し、その枠内で免許を付与することを原則とする旨定めていた。

(三) 免許の種類について

取扱要領は、酒類小売業免許とは、「消費者又は料飲店営業者(酒場、料理店その他酒類を専ら自己の営業場において飲用に供する営業を行う者をいう。)に対し酒類を継続的に販売することを認められる酒類販売業免許」をいい、一般酒類小売業免許とは、「販売場において、原則としてすべての種類の酒類を販売することができる酒類小売業免許」(ただし、大型店舗酒類小売業免許及び特殊酒類小売業免許を除く。)をいう旨定めており、また、国税庁の取扱いとしては、「料飲店営業者のみに販売する免許」を独立の免許区分とはしておらず、料飲店営業者に対し酒類を継続的に販売することを認める酒類販売業免許については、一般酒類小売業免許に該当するものとして取り扱っていた。

2  本件土地の取得等

(一) 申し込み

昭和六〇年一二月、原告らは、神戸市が神戸流通業務団地・流通業務施設用地の分譲先を公募したので、右に対する申し込みをした。

神戸市が右公募の際に発行した公募のしおりにおいては、

3  譲受申込み者の資格

次の各号の要件を満たす者であること。

(1) 分譲用地において自ら卸売施設(画地〈1〉~〈10〉)又は倉庫施設(〈11〉~〈19〉)を経営しようとする者

4  申込み手続

(3) 申込み方法

画地毎に申込みください。なお画地〈6〉~〈9〉と画地〈11〉~〈13〉、〈16〉、〈18〉については、画地毎の申込みは出来ませんので、希望する面積を申込み下さい。本市が画地を決定します。

9 契約条件

(1) 土地利用計画との適合

分譲用地を卸売施設(画地〈1〉~〈10〉)又は倉庫施設(〈11〉~〈19〉)の用途に使用すること。

(5) 契約の解除、土地の買戻し並びに違約金の徴収

土地譲渡代金の支払いを怠ったとき、その他譲渡契約の定めに違反したときは、違約金として土地譲渡代金の10%相当額を徴収のうえ、契約の解除又は土地の買戻しをします。

なお、買戻し期間は契約締結後10年間とし、買戻し特約登記を所有権の移転登記に付記して行います。

などの記載があった。

原告らは、右場所で卸売をするべく申し込んだが、神戸市の指定により倉庫施設用地(〈18〉)の割り当てを受けたので、原告らは神戸市の職員に尋ねたところ、卸売施設用地も倉庫施設用地も同じように考えてもらってもいいとの回答を得た。

(二) 譲渡契約

昭和六一年三月二五日付けで、原告らと神戸市との間で、本件土地の譲渡契約が締結された。右契約の契約書には、神戸市を甲、原告湊川酒販を乙、原告北野商店を丙として、

(土地の利用計画)

第3条 乙及び丙は、土地を法第5条第1項第1号から第5号に定める流通業務施設(以下「施設」という。)のうち、分譲申込みの際に甲に提出した神戸流通業務団地造成敷地譲受申込書(以下「申込書」という。)に基づいた用途にのみ使用しなければならない。

2 乙及び丙は、やむを得ない理由により、申込書の記載事項を変更しようとするときは、あらかじめ甲に協議し、その承認を得なければならない。

(契約の解除)

第17条 甲は、乙及び丙が次の各号の一に該当したときは、契約を解除することができる。この場合において、乙及び丙又は第三者に損害を生じても甲はその責を負わない。

(1) 法第35条に規定する造成敷地の譲受人としての資格を欠いたとき。

(2) 土地代金その他甲に納付しなければならない金銭を納付期限までに納付しないとき。

(3) 第14条第1項の規定に違反したとき。

(4) 土地引渡し前に解散したとき。

(5) 契約に関して甲に提出した書類に虚偽の記載があったとき。

(6) 前各号のほか、契約に違反したとき。

(土地の買戻し)

第18条 甲は、乙及び丙が次の各号の一に該当したときは、土地を買戻すことができる。この場合において、乙及び丙又は第三者に損害を生じても甲はその責を負わない。

(3) 第3条の規定に違反したとき。

2 前項の規定による甲の土地買戻し期間は、契約締結の日から10年間とする。

との条項があった。

(三) 引渡し等

昭和六一年一〇月二三日、原告らは、神戸市より、本件土地の引渡しを受けた。そして、昭和六二年三月二七日、本件土地につき、原告らの共有持分を各二分の一とした所有権保存登記がなされるとともに、神戸市を買戻権者、期間を昭和七一年三月二五日までとする買戻特約の登記がなされた。

(四) なお、兵庫県卸酒販組合の構成員である神戸酒類販売株式会社、檜垣酒類株式会社、株式会社マスダ神戸支店及び三陽物産株式会社神戸支店は、いずれも本件神戸流通センター内において、土地利用区分が倉庫施設用地とされている場所を利用し、酒類の卸売販売をしている。

3  本件各申請書の記載内容について

原告らは、本件各申請に係る酒類販売業免許申請書には、販売方法として小売販売業、添付書類である事業もくろみ書にも、酒類の予定販売先として流通団地周辺等の一般消費者を対象とするなどと記載しているが、これらは、大阪国税局酒税課長監修の「酒販免許必携」に記載のある「免許申請書類の書き方」に沿って記載したものであり、原告らとしては申請販売場で一般消費者を対象とする小売販売をすることは考えていなかった。

なお、一般酒類小売業免許申請の場合、添付書類である事業もくろみ書において、主な予定販売先及び取引承諾書については省略して差し支えないとの取扱いがされていた。

4  本件各申請後本件各拒否処分までの経緯

(一) 被告による神戸市長への照会とその回答

被告は、平成六年一一月三〇日付けで、神戸市長に対し、神戸流通業務団地につき倉庫施設として分譲を受け、倉庫として使用している場所において、消費者又は料飲店営業者に対し、酒類を継続的に販売する行為が、流市法五条の規制の対象となるかにつき照会をした。これに対し、神戸市長は、同年一二月七日付けで、被告に対し、小売行為は認められていない旨の回答をした。

(二) 原告らと神戸市との交渉

原告らは、神戸市と交渉を重ね、神戸市の担当者から料飲店への配送という形態なら流市法上は問題はないとの回答を得た。

(三) 原告らと被告との交渉

(1) 原告らは、神戸市須磨税務署(長)の取り扱う酒販免許に関する事務をも取り扱う酒類指導官と、少なくとも七、八回は交渉をした。原告らは、右交渉過程で、料飲店営業者のみに対して販売するとの口頭の説明をした。また、神戸市との交渉経緯及び結果についても報告していた。

(2) 右酒類指導官は、原告らに対し、本件各申請書の訂正ないし書き換えなどの指導はしなかった。右酒類指導官が右の指導をしなかったのは、料飲店営業者のみに販売することを予定している場合の免許は、一般小売業免許ではなく、特殊小売業免許であり、特殊小売業免許の申請は一般小売業免許付与の手続から外れ、また、特殊小売業免許の申請をしたとしても右免許が付与される可能性が低いと考えたためであった。

二  争点1について

1  右認定事実に基づき検討するに、一般小売業免許は、一般消費者を販売対象とする場合、料飲店営業者を販売対象とする場合、右両者を販売対象とする場合とを含むことになり、料飲店営業者のみへの酒類の販売は、特殊小売業免許ではなく、一般小売業免許の範疇である。

前記認定によれば、本件各申請書の記載内容からは、本件各申請はそれぞれ料飲店のみを販売対象とした申請とはなっていないことが認められるが、これらは書類作成のひな型に沿って記載されたものであること、申請書に虚偽の記載があることが明らかになった場合においても、法一〇条一〇号該当性につき十分な審査をする扱いとなっているうえ、原告らは申請販売場における一般消費者を対象とする小売販売を考えていなかったので、被告に対し、本件各拒否処分がなされるまでに、本件各申請は販売先として料飲店営業者のみを予定していることについて口頭での説明をしていることが認められ、かかる事実を併せ考えると、原告らの本件各申請は、料飲店営業者のみに対する販売の免許申請であったと解するのが相当である。

そこで、料飲店営業者のみへの販売について免許付与の許否を検討するに、右のような販売をなすための設備ないし施設の建築ないし転用自体は流市法には違反しないと解されるが、本件土地は倉庫用地としてのみに使用しなければならない旨の神戸市との本件土地譲渡契約の特約には違反するものであり、形式的には解除、買戻しの可能性があったということができる(ただし、現時点では買戻し期間は経過している。)。

しかし、右特約に違反し、形式的には解除、買戻しのなされる可能性があったとしても、本件土地譲渡契約には「やむを得ない理由により、申込みの記載事項を変更しようとするときは、あらかじめ神戸市に協議し、その承認を得なければならない」との条項もあり、倉庫用地から卸売施設用地への土地使用目的の変更も絶対的に禁止されていたわけではないこと、料飲店営業者のみへの販売のための設備ないし施設の建築ないし転用自体は流市法には違反しないこと、本件各申請に係る各販売場の利用形態は、料飲店営業者のみへの販売を認めた場合と倉庫として利用する場合とで、注文を受けることができるかなどの違いはあるものの、ほとんど変わらないと考えられること、他の卸売業者も本件流通団地内の倉庫用地を(卸売施設の敷地として)使用していること、原告らは本件土地の分譲を受けるに際し、神戸市の職員から、卸と倉庫は同じように考えてもらってよい旨の説明を受けていること、原告北野商店は、食糧管理法八条の3第一項により兵庫県知事から許可された小売業者として、本件流通業務団地内の営業所において、料飲店営業者等への配送販売をしていること等の事情を総合して判断すると、原告らが本件各申請販売場において料飲店のみへの酒類の販売行為を行ったとしても、神戸市は実際には本件土地譲渡契約の解除、あるいは本件土地の買戻しをなす可能性はほとんどないものと推認することができる。

ところで、酒類販売業につき免許制が採られているのは、酒税の納税義務者である酒類製造者に酒類の販売代金を確実に回収させ、最終的な担税者である消費者に対する税負担の円滑な転嫁を実現することを目的として、これを阻害するおそれのある酒類販売業者の酒類の流通過程への参入を抑制し、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るためであるから、免許の要件を定めた法一〇条は、酒類製造者が酒類の販売代金の回収に困難を来すおそれがあると考えられる場合を限定的に列挙したものと解され、これらに該当するとは認められない場合には申請どおり免許を与えなければならないというべきである。かかる見地から検討すると、本件においては、原告らが必要な販売施設ないし設備を設けることができないとは断定できず、いずれも「経営の基礎が薄弱である」と認めることはできない。

2  また、被告は、酒販免許には流市法の規定に適合させるための条件は付けられず、一般消費者に対する販売をも認める内容の酒販免許を付与することは行政の統一性の観点から問題がある旨主張するけれども、実体法上免許を付与することに問題がない場合に、単に形式的に条件を付けることが予定されていないということのみを理由として免許拒否処分をすることは、職業選択の自由を必要以上に制約するものであると考えられること、(特別の)条件なしの免許を付与したからといって、原告らの申請の意図、販売場の場所柄等から一般消費者への小売行為は現実的ではなく、特に不都合はないこと等の事情にかんがみると、免許を拒否する理由とはならないものと解するのが相当である。

三  争点2について

前記酒販免許制の立法目的からすると、法一〇条一一号の規定は、申請者の参入により、酒類の需給の均衡が破れる結果、酒類販売業者の経営の基礎が危うくなると認められるため、酒類製造者において販売代金の回収に困難を来すおそれがある場合を規定したものと解されるところ、取扱要領においても、酒類の需給調整上の要件として小売販売地域の当該年度内の免許枠を確定し、右枠内で免許を付与することを原則とする旨定めており、被告は平成六年度の北須磨支所管内免許枠を八件と公告し、原告らは右枠内で申請したもので、原告らの本件各申請は取扱要領の右要件を充足していたというべきである。

もっとも、被告は、料飲店営業者にしか販売できない本件各申請販売場に一般酒類小売業免許を付与することは、人口基準を形骸化し、需給の均衡に支障を来す旨主張するが、料飲店営業者のみに販売する場合の免許は一般小売業免許に含まれている以上、料飲店営業者のみに販売するということのみを理由に免許拒否をすることは右のような場合にも免許が認められていることと矛盾するうえ、料飲店営業者のみに販売するということが、既存の酒類販売業者の経営の基礎を危うくするとの証拠もないから、法一〇条一一号に該当するとして酒販免許を拒否することは許されないものと解すべきである。

四  まとめ

以上のとおりであり、本件において、原告等はいずれも法一〇条一〇号ないし一一号に該当するということはできず、本件各拒否処分は違法であるからこれを取り消すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 田口直樹 裁判官 大竹貴)

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